2016-01-31

Line indoc - CRJ200とCRJ705の違い-

 訓練が終わってから数日間のお休みの後、さっそくline indocが始まりました。 これは、お客さんを乗せて飛ぶフライトを通して実際のオペレーションを学ぶ訓練です。 具体的な時間は忘れましたが、数十時間の飛行時間と、それぞれの機種(CRJ200/CRJ705)でPFとPMの両方を決められた数だけこなした後、最終的にline checkという監査フライトがあり、それに合格すると晴れてCRJの副操縦士として乗務することができるようになります。 

 Line Indocでは「トレーニングキャプテン」という資格を持った機長と飛びます。 皆さんとても経験豊富で、フライトインストラクターの経歴を持った人も多いようです。 第一回目のペアリングは以前僕が泊まっているクラッシュパッドに滞在していたキャプテンで、顔見知りだったこともあり、リラックスして飛ぶことができました。 シミュレーター訓練はほぼすべてCRJ200シミュレーターで訓練していたのは前述の通りですが、実機第一回目のフライトはCRJ705でした。 

 CRJ705はCRJ900シリーズがベースになっている機体です。 全長約36メートルで、以前飛ばしていたダッシュ8よりも約10メートルも長い飛行機です。 胴体は細長く、ボーイングやエアバスといった旅客機に比べると「小さい」と思われがちですが、長さだけを見るとエアバス320(日本のLCCエアラインがよく使っている機種)とほぼ同じで、巡航速度ではCRJのほうが速く、パフォーマンスを見るとCRJのほうが高性能のようです。 シミュレーター訓練が終わっていきなりこれに乗るっていうのはどうなの?と思いながら初めてのペアリングを迎えました(笑)。

 最初の2フライトはPMで、機長の操縦を観察するような感じでした。 訓練で学んだこととは若干違うことが実際のラインオペレーションではあります。 今まで乗務していたダッシュ8は最高巡航高度が25,000フィート(約7600メートル)でしたが、今回のジェット機は最高41,000フィート(約12,500メートル)まで上がることができます。 地上10キロ上空を巡航するってすごいな〜って思います。 しかも、ジェット機のエンジンはパワフルなので、高度30,000フィートを超えてもCRJ705の場合は上昇率が落ちることがあまりなく、ぐいぐいと高度を上げていきます。 CRJ200は少し非力な面があり、高度が上がるにつれて上昇率がだいぶ落ちていきます。 高度38000フィートまで上がるとなると、結構一生懸命です(笑)。 25000フィートを通過するときに機長が、「ほらほら〜、今までダッシュ8では行ったことがない世界に突入するよ〜」って言ってきました(笑)。 特になにも感じませんでしたが、やっぱり38000フィートともなると外の景色が少しだけ違って見えます。 空の青みが強く見えたり、地表の湾曲具合が少しだけ強く見えたり。 アメリカを飛んでいるときには特に他の旅客機が上や下をどんどん通過していきます。 これもダッシュ8では見なかった光景です。

 CRJ705もCRJ200も一旦空に上がってしまえばどちらも似たような感じですが、離陸・着陸はかなり違います。

 離陸では、ローテーション(前輪が地面を離れること)が始まってから5〜6秒は主輪(後ろのタイヤ)は地面に着いたままです。 コクピットに座っている僕はどんどん上に上がっていくのが感じられますが、機体の後ろは長いので、まだまだ宙に浮いていない、「ウイリー」をしているような感じです。 ダッシュ8の場合はローテーション後すぐに機体が宙に浮いていたので、この感覚は新鮮でした。 

 着陸では、CRJ200は機体が短く、アプローチ中は機種が下に向いている状態で降りてくるので、どちらかというとダッシュ8と同じような感じでアプローチをします。 ところが、CRJ705の場合は大型旅客機と同じように機種が上をむいた状態で降りてきますので、アプローチ中の外の見え方はだいぶ違います。 また、コクピットが車輪よりもだいぶ高いところにあるので、着陸寸前の「フレア」のタイミングを間違えるとかなりハードなランディングになります(実際、最初の2回くらいのランディングは結構ハードでした・・・)。 

 っといった感じで、CRJ200とCRJ705の飛ばし方は慣れるのに少し時間がかかるように感じました。 他の相違点はまた次回。


(つづく)

2016-01-18

ジェット機訓練 - Phase 3-

 訓練の最後にPPCの実技試験がありました。 これも夜9時スタートです。 前日はいつものように緊張していてあまり良く眠れませんでした。 臆病なんですよね、きっと(笑)。 でも、今までもいつもテスト前はこんな感じで、それでも実際の試験が始まるころには集中力がぐっと上がって、寝不足だということはほとんど感じたことがないので、今回も特に心配はしませんでした。

 シミュレーターセンターに到着してすぐに分かったんですが、我々の前の組の訓練スタートが1時間以上遅れたらしく、結局、我々の試験も1時間半以上遅れてスタートすることになりました。 ショック〜! さっさと終わらせて、さっさとストレスと緊張から開放されたいと思っていたのに、こういうときに限って・・・・。 試験官とのブリーフィングはさっさと終わり、そこからはひたすら前の組がシミュレーターから出てくるのを待ち続けることになりました。 じっとしているのもなんなので、シミュレーターの建物の中をぐるぐる歩き回っていました。 コーヒーもガブガブ飲みました(笑)。 

 結局、予定よりも2時間近く遅れて試験開始となりました。 最初に僕がPilot Flying(PF)、パートナーがPilot Monitoring(PM)で試験開始。 シミュレーターに入って操縦席に座った瞬間に「いよいよ試験か〜」って、なんとも感慨深い気持ちになりました。 でも、そんなこと悠長に考えている暇もなく、急いでFMS(フライトマネジメントシステム)にフライトプランを打ち込み、チェックリストをやってすぐに離陸です。 トロント空港を離陸後、目的地に向かって飛んでいるときにコクピットの警告灯がフラッシュし始めます。 最初のmalfunctionです。 今までの訓練でもこのシナリオはやっているので問題ないですが、こういうときに限って今まで一度も見たことも聞いたこともない問題が発生していました(笑)。 パートナーがQRH(Quick Reference Handbook)を見ながら一つづつトラブルシュートしていきます。 途中で僕も手伝い、二人でなんとか問題を処理しました。 ここで大事を取って緊急事態を宣言し、トロントに戻ることにします。 航空管制官、ディスパッチャーとの無線連絡、客室乗務員への説明、乗客への状況説明を行い、フライトプランを変更し、トロントにむけて引き返しました。 トロントに無事に着陸し、そこでこのエマージェンシーは終了。 

 飛行機はもとの正常な状態に戻り再度離陸。 今回は離陸の直前でエンジン停止。 飛行機の離陸のときには「V1, Vr, V2」といったいわゆる「Vスピード」というものがあります。 離陸のための滑走を開始し、V1のスピードに到達すると、そこからは仮にエンジンが一つ停止しても離陸を中止するのに必要な滑走路の距離が残っていないので、離陸を続行し、空中で問題処理して着陸することになります。 訓練でのエンジン停止はこのV1スピードに到達した直後(もっとも安全飛行にとってクリティカルなタイミング)に起こることが多いので、パイロットには通称「V1カット」という名称で親しまれています(笑)。 

 V1カットの後、離陸を続行し、ランディングギアを格納し、故障したエンジンをシャットダウンし、問題のないほうのエンジンのみで飛行を続けます。 CRJはエンジンが一つしか動いていなくても素晴らしいパフォーマンスを発揮します。 ジェット機はやっぱり凄いです。 クルーズ中ならエンジン一つでも軽く250ノット(時速約460キロ)ほど出るそうです。 

 なにはともあれ、単発でのアプローチ、エンジン火災、その他もろもろのエマージェンシーをクリアし着陸。 そこで僕のPFとしてのフライトは終了。 途中でいくつか凡ミスをやってしまったのですが、それら以外はだいたいうまくいった手応えがありました。

 10分ほどの休憩後、今度は僕がPM、パートナーがPFで再度離陸。 内容は違うものの、シナリオは僕のときと似た感じで、エンジン火災、その他の緊急事態の対応、単発でのIFRアプローチなどをやり、午前3時過ぎに無事テスト終了。 二人共合格できました。

 試験後のディブリーフィングでは試験中に間違っていたことを指摘されました。 いくつか細かいところでミスがありましたが、致命的なものではなく、注意程度の内容でした。 その他はよくできたね〜とお褒めの言葉をもらい、ライセンスにサインをしてもらい、無事にCRJ操縦資格を取得できました。

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 試験後は2日ほど休みがあり、今度はCRJ-705 Difference Courseがありました。 前半の訓練ではCRJ-200(50人乗り)のシミュレーターを使っていましたが、僕が働く会社には75人乗りのCRJ-900(僕の会社では75人乗りに座席配列されているため、CRJ-705という名称で呼ばれています)もあるので、今度はこちらの飛ばし方を3日間に渡って習いました。 名前の通り、主には「違い」を学び、シミュレーターで訓練を二日間行いました。






(下の機体がCRJ-900/705)



 CRJ-705は長さで言えばエアバス320(日本で言えばピーチ、スターフライヤー、全日空などが運航しています)とほぼ同じで、胴体が長い飛行機です。 そのため、いろんな面で飛ばしているときの感覚や、コクピットからの外の景色の見え方が違います。 それらの違いを知らないで飛ばすとエライことになるため、こういうトレーニングをやるわけです。 こんなにも違いが多い飛行機なのに、一つのPPCで両方飛ばせるのってどうなんだろう?っていうのが正直なところです(笑)。

 CRJ-705はCRJ-200とシステムは似ていますが、オートメーション化がさらに進んでいるので、パイロットがやらなければならないチェック項目などが自動でされていたりして、かなり進化したモダンな飛行機という印象です。 実際に飛ばしてみるとCRJ-200よりはだいぶ安定していて、操縦桿でのインプットに対する反応がワンテンポ遅い感覚を受けます。 




(格納庫で見たCRJ-705)


 Difference courseが終わり、カルガリー経由でビクトリアに戻り、長かった1ヶ月半以上に渡って行われた訓練がようやく終わりました。 5日間の休暇の後、今度はLine indocが始まりました。 

 Line indocではお客さんを乗せて実際の運航をしながら訓練を続けます。 シミュレーター訓練はやはり実際の飛行とは違うことが多いので、今までシミュレーターで習ったことを実際の日々の飛行に当てはめ、実際のオペレーションに慣れていくというのが目的です。 これはトレーニングキャプテンと飛びます。 Line indocが終わると今度はLine Checkという試験があります。 これは先日合格しまして、今は晴れてCRJ副操縦士として乗務しています。 Line indoc、Line Checkについてはまた次回。


(つづく)